花入 銘“ 白似土” /Anti-shaded origami vase SHADE -日本橋の家 特別版

日本橋の家の中でも特に小ぶりな一室を、茶室に見立てることとした。普段はベンチに座り、すりガラス面を向くような視線だが、今回の見立てによって視線が逆向きとなることで、安藤忠雄のシグネチャーであるコンクリートと光に真っ向から対峙する空間となる。
具体的には、ベンチを床に見立てて花入を、そして床柱を示唆するものとして「極細のエンタシス」を置き合わせた。中庭側の小壁は亭主床に見立て、計画中のプロジェクトのコンセプト模型を掛けている。
展示のメインとなるのは、脳の認知とのズレや”記号”を利用して存在を消すことを試みた、折紙の花入である。陰 (shade)を錯覚させるように印刷された微妙な濃淡により、器の存在を消すことを試みている。なお通常版とは異なり、今回のスペースの光にあわせてシミュレーションをし直した特別版となっている。
花入のほか2点も、同じく認知から存在を消すという一貫した思考に基づくものである。


■花入・床(ベンチ)
銘“ 白似土” /Anti-shaded origami vase SHADE
日本橋の家 特別版
※舘知宏と協働
用紙提供:株式会社竹尾
使用紙:気包紙GL-FS


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普段はベンチとして用いているコンクリートの長細い台を、床に見立てた。吹き抜けに面した窓からは、墨跡窓を思わせる光が入り、コンクリートの壁を印象的に引き立てている。

紙で出来たこの花入は一見、真っ白あるいは淡いグレーの単色に見えるが、実際は微妙な濃淡が全面にプリントされている。シミュレーションで影を逆転した色をあらかじめプリントすることで影を錯覚で消す試みであり、床に飾ってある平面状態のものがタネ明かしとなっている。

■花
夏椿(沙羅の木)とフタバガキの実
コンクリートの型枠に使われるラワンベニヤは、フタバガキ科の木からつくられる。型枠は安藤のコンクリートには不可欠なものである。床に意識を向け、安藤のコンクリートと光に対峙するための気づき・きっかけとして、沙羅の木を選んだ。沙羅の木はラワンと通称される木材であるフタバガキ科の木である。なお、沙羅の木は日本では自生しておらず、その代用として古くから日本で用いられてきた夏椿をあしらっている。

・床柱
「極細のエンタシス」神宮前ギャラリー A-スタジオのためのモックアップ
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・亭主床(中庭側小壁)
軽井沢の住まい(進行中) 初期コンセプト模型

プランニング

出展にあたり、茶室のような小部屋があるからそこで展示をしてもらえないかという依頼だった。調べてみると、部屋の短辺の長さが京間の畳プラス畳寄せの寸法ほぼぴったりであることに気づく。安藤忠雄が茶室をいくつか手がけていることから、これは偶然ではないだろう。
直射光の入らない柔らかい光のこの小部屋の印象は、茶室に通じるものがあって居心地がよい。平三畳、下座床+亭主床の茶室的な空間に見立て、展示物を配している。

まずは吹抜が、茶室への露地となる。この吹抜は内部空間ではあるが、そのスケールと明るさから、どこか外部のような印象をもつ。吹抜の階段の勾配はゆったりとは言えず高さも相まって緊張感があるが、露地の飛石の雰囲気としてはぴったりだろう。

飛石に見立てた吹抜の階段を上って扉を入ると、正面にコンクリートの壁とベンチがある。この壁面を床に見立てた。この小部屋において、安藤忠雄のシグネチャーであるコンクリートと光が一番印象的に感じられる面を床とするのはごく自然な考えだろう。

ベンチを床に見立てるきっかけ、また平三畳の位置を示す結界として、「極細のエンタシス」のモックアップを床柱として展示している。

なお、照明スイッチやコンセント・インターホン・テレビ端子などは、コンクリートの写真を記号的に貼り付けて、見立ての意識の中ではその存在を隠蔽してある。斜めから見れば見えてしまう脇の甘い隠し方だが、黒子や書割のような見立ての思考へとマインドセットを誘導するための仕掛けである。

中庭からの入口を茶道口とし中庭寄りのスペースを点前座とすれば、すりガラスの面は、風呂先窓として見立てることに全く違和感がない。中庭からの入口脇の小壁は亭主床として見立て、進行中のプロジェクトの初期コンセプト模型を展示している。



展覧会名:アーキテクツ・オブ・ザ・イヤー2022
「日本橋の家を読み、展示する」

コミッショナー 五十嵐太郎

コーディネーター 竹口健太郎 林陽一郎
プロデューサー 遠藤秀平
会場協力 金森秀治郎
主催 日本建築設計学会

会場 ギャラリー 日本橋の家 〒542-0073 大阪市中央区日本橋2丁目5−15

展示期間  10月29日(土)から11月12日(土)まで 13:00から17:00 開場

URL:http://www.adan.or.jp/news/event/3613